出 産




 11月8日。その日は朝から何となく「いつもと違う」という気がしていた。テレビのドラマでは、陣痛はいきなり襲ってくるって感じで多少不安はあったが、予定は12日。初産は遅れると言う話だったし(まぁ、強者ミキさんの例もあるが)まだまだだろうと思っていた。日中は普通に過ごして、夕飯もいつもと変わらず食べた。少し神経質になりすぎているのだろうと、お風呂に入っていつもより早めにベッドに入った。夜10時頃、何となくお腹が痛いような気がする。が、テレビのドラマで妊婦がのたうち回るシーンとはほど遠い感覚だ。気のせいだろうともう一度横になる。10時半、少しずつ痛みが増してきたような気がした。取りあえず産婦人科に連絡をして、当直の看護婦さんの指示を仰ぐ。「もう少し痛みがきつくなって10分間隔くらいになったらもう一度連絡をください」との事だった。もう少し痛みがきつくなるって・・・どれくらいきつくなったらなのかも分からないし、柔らかい痛みだが間隔は10分くらいに狭くなってきている。妊娠期間中ずっと生理痛とはおさらば状態だったわけで、少しの痛みでもかなり痛く感じる。11時過ぎ、このまま眠る気にもなれず、結局入院する事になった。

 病院に着くとすぐに診察。まだ子宮口は開いていないとのことだったが、実際お腹は痛くなってきてるわけで、今更帰れと言われても困る状態だった。取りあえず陣痛室でモニター用の機械をつけて、本格的な陣痛を待つ。夜中何度か看護婦さんが見に来てくれたがそれ以上陣痛がきつくなる様子もない。9日早朝3時過ぎ、一度分娩室に入り再度診察。いつ分娩になっても良いように出産の前の処置(浣腸や剃毛)をしてもらう。白々と外が明るくなって、本格的な陣痛もないまま一般の病室にうつされた。

 朝の検診で再度子宮口を診てもらったが、まだ2センチくらいしか開いていないとのこと。まだまだ時間がかかるだろうと言うことで、旦那は一時着替えと食事をしに家に帰った。お昼ご飯を食べても、おやつを食べても微弱な陣痛だけで、本格的に痛くなる気配は全くなかった。このままじゃ退院してくれと言われても仕方がない状態だった。が・・・

 夕方5時過ぎ、とうとうやってきた!! 部屋は相部屋だったので、騒ぐわけにも行かず、タオルをかみしめて陣痛の波が過ぎるのを待つ。看護婦さんが夕飯を運んできてくれたが、ほとんど箸をつけることも出来ずに、次の痛みの心構えをする。旦那は昼間ずっとそばにいてくれたが、たまたま陣痛が始まった時には夕飯を食べに家に戻っていた。どうせ私が食べられないのなら旦那にかわりに食べてもらえば良かった。また時計を見ながら波が過ぎるのを待つ。旦那が到着。腰が砕けそうな痛みに耐えられなくて、ずっと腰をさすってもらった。そして9時過ぎ。再び陣痛室へ移された。

 痛みの間隔はどんどん狭くなっている。痛みもどんどん増していく。どんな格好をしても楽にならないし、最後には膀胱が圧迫されすぎて尿意を感じなくなり、恥ずかしい話だがおっしっこが出てきたのを破水したのだと思った。1時間間隔で看護婦さんが見に来てくれるのだが子宮口はまだまだ開かないし、涼しい顔で「もう少し時間かかるねぇ〜」と言う。帝王切開でもなんでもいいから、頼むから早くこの痛みから解放してほしいという感じだった。痛みの合間にうつらうつら眠るのだが、旦那はその間も腰をさすってくれていた。というより、そうしてもらわないと辛くて仕方ないのだ。旦那も相当眠たかっただろうに、とにかく陣痛室に居る間はずっと腰をさすってくれた。本当に感謝感謝だった。

   11月10日早朝1時、分娩室に移った。看護婦さんが先生に電話をしている。「先生お願いします。子宮口はまだ7センチくらいなんですけど、もうそろそろだと思うんで」・・・先生が到着するまでは本格的な分娩にはならないので、それまで旦那は陣痛室で仮眠をとることになった。私の方は相変わらず襲ってくる痛みに大声を上げながら一刻も早く先生が到着してくれるのを待った。

 2時ちょっと前、先生が到着。その時の状態を看護婦さんに確認し、分娩のための指示をする。当然その間も私は痛みと戦ってるわけで、とてもその動作がゆっくりに見えた。もう「早く出してくれぇ〜」と怒鳴りたくなるほどだった。そうこうしている内に看護婦さんに呼ばれて旦那が分娩室に入ってきた。とうとう始まる。マタニティースイミングで教わった呼吸法が役に立ったかどうかは分からないが、とにかく看護婦さんのいう通りに深呼吸をくりかいし、そして息む。

 長々続いた陣痛とは裏腹に、ベビーは3回息んだら出てきた。初めて肺で呼吸を始めた彼女は、本当に大きな声で元気に泣いていた。運良く土日にかかって全くもって親孝行な娘だ。それにしても、あまりの痛さに、日本語だって変なことを口走るだろうに、アメリカだったら言いたいことを考えなくてはならないわけで・・・そう思ったら本当に日本に帰ってこれて良かったと思った。分娩にかかった時間、23時間37分。とにかくシモに変な力が入りすぎて4日ばかり大痔主になってしまった。会陰切開の縫い後の痛みと重なって、授乳時に座るときも命がけだったが、世のお母さん達は、みんなこんなに大変な思いをして子供を産んでるんだなぁ〜と思ったら、冗談抜きで生まれてきたことを感謝した。



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